PixAI Mio.2
Aincrad第八十九層——《風見の草原》。レイヤーを繋ぐ空の梯子の麓に立つ白い風車の前で、《閃光》が立っていた。
夕陽が草原を蕎麦色に染めていく。名も知らぬ花が風に揺れ、向こうにうっすらと雲海。
アスナ: 「待ってたわ。あの時の約束、ちゃんと覚えていてくれたのね」
明日奈はわずかに笑って、麻花の辫裾を撫でる風に目を細める。
アスナ: 「ねえ、今日は二人とも休養日ってことで……クエストはなし。歩いてくれるだけでいいの」
彼女の隣には、先ほど解いたばかりのラフレシアンが大輪を揺らして並んでいる。足元に鞠のようにちいさな白い花が一面に咲いていた。
アスナ: 「あなたと歩く時、いつも風がちょうどいい方向に吹いてくれるの。何かの魔法?」
いたずらっぽく僕が言うと、彼女は一瞬だけ照れたように目を伏せて、すぐに真っ直ぐこちらを見上げた。
アスナ: 「馬鹿ね。……でも、悪くないわ、その言い方」
草原の光の中で、いっしょに歩き出す。どこまでも、あと少しだけ二人でいたいと思う夜だった。

並んで歩く。僕の歩幅に合わせて、彼女は意識して少しだけ速度を落とす。
アスナ: 「あなたって、不思議ね。戦場では獰猛なくせに、こういう時は穏やかで……ちょっとずるい」
こちらを横目で眺めながら、彼女の口元がほのかに緩む。麻花の辫先が、時折こちらにしまって触れた。
アスナ: 「それにしても、ここまで来てくれたんだね。第八十九層の主《ホーンホーク》まであと少しなのに」
目の前に広がる穹状の空。一面の草原を吹き抜ける風が、その雄大さを思い出させてくれる。
アスナ: 「百層を突破するその暁には、一緒に渡りたいの。あなたと」
言い切ってから、彼女は自分から少し耳を赤くした。馬鹿みたいに飾り気のない言葉だからこそうれしい。
アスナ: 「だから……今はあなたを、置いてかないでね」
いつの間にか、彼女の指先がこちらの手に触れていた。返事を待つみたいに、静かに、けれど逃げることなく。
アスナ: 「ねえ、この先、どうする? 草原をこのまま端まで歩く? それとも、あのカフェ『ラベンダー』に寄って、麦茶を飲む?」

《ラベンダー》のカウンター席。頼んだ麦茶が、曇りガラスのカップの中で涼しげに揺れていた。
アスナ: 「ここで飲む麦茶、なんか別格よね。戦いの後の甘さが、全く違う」
うん、とだけ答える。この時間がどんなに貴重か、戦場ではとても口にできない。
アスナ: 「ねえ、ちょっと思うんだけど」
彼女はカップを置いて、小さく息を吐いた。何かを切り出す前の、あの呼吸。
アスナ: 「私たちが恋に落ちたのって、ログアウトできないから……ってだけじゃないわよね?」
真っ直ぐに見つめてくる乜眼に、一瞬たじろいだ。この世界だけの恋じゃないと、認めていいのか。
アスナ: 「……ふふ、難しい顔しないで。簡単な話。あなたじゃなきゃイヤだっていう、それだけのこと」
麦茶のグラスが軽く鳴る音。彼女の指先が、こちらのカップにそっと触れた。
アスナ: 「だから、ここを出ても、私はあなたの剣よ。そしてあなたの——恋人」

その言葉が胸の奥に厙のように残る。こんなことをいっしょに重ねていける日が来るなんて、あの第一層では思ってもみなかった。
アスナ: 「昔ね、あなたと初めて組んだ時、思ったの。この人、私の剣の尧りになれるなって」
アスナ: 「でも今は……剣がなくても、あなたを知りたい。あなたの日常も、夢も、嫌いな食べ物も」
カップを持つ手が少し強張っている。照れを隠すように、麦茶の残りを最後の一口で飲み干した。
アスナ: 「ログアウトしても、私のこと、好きでいてくれる? 現実の明日奈でも」
いっしょに戦って、一緒にご飯を食べて、一緒にあの空を仰いだ時間が、今の彼女をそうさせているなら——。
アスナ: 「だってこのコスチューム、今日はちょっと恥ずかしいの。こっちの方が本当の私だから」
彼女は裙の裙を摘まんで、照れ隠しのように軽く翻した。こんな姿、普段の厳しい《閃光》からは想像もつかない。
アスナ: 「じゃあ、約束して。『百層のその先でも』って」
差し出された小指。彼女の瞳には、期待と、少しの恐れ。僕の答えを待ちわびたまま。
